クレイジーケンバンドニューアルバム「華麗」
オフィシャルインタビュー

横山剣

――毎年、ずっと好調なペースでアルバムをリリースされていますけど、そのモチベーションはどこからくるのでしょうか?
「そうですねぇ、体質というか、毎年、浮かんじゃうんですね。常日頃、浮かびっぱなしってわけじゃないし、作曲期間を決められてもできなくて、浮かぶ時にはワーッと出る。それが読めなくて困るんですけど。今回もレコーディング中に、途中で2曲増えたりとか。後半になってリード曲ができたりとかしました」

――核になる曲があって全体像が出来上がるわけではなくて?
「そうですね、その年のベスト盤がアルバムになっているという感じです。曲のストックもあるんですけど、それだけに頼るわけではなくて、書下ろしが多いです。忘れた頃に出てきたり、録音してなかったけれど、しばらくしてまた出てくる、というのも今回もありました」

横山剣

――今回の先行シングルは「Summertime 411」ですけど、これは夏のイメージが強い曲ですね。
「これはわりと早いうちにできていました。歌詞は1月までのことを言ってますけど、”Summertime“っていう響きが大サビの一番目立つところにあるので、夏に響かせたいという想いから、先行シングルとして夏に間に合うように7月16日にリリースしました。CDだともう少し時間かかりますけど、配信だと録ってからすぐに出せる、という利点がありますね。アルバムはその時のモードが出るので、今一番自分が聴きたい音楽を自分たちで作るということになります。車の中で曲が浮かびやすいという点では、今回、25枚目ですけど1枚目から変わってないですね」

――411は4分11秒という意味なんですね?
「はい。過去に「SUMMER TIME」という曲があったので、混同しないように分数を加えて。あと、文字は違いますけど「加齢」とか、「時差」といった、数字とか時間という概念がアルバムの中で裏テーマになっていますね。秒数とか途中経過とか」

――アルバム・タイトルですが、『樹影』『世界』『火星』ときて、『華麗』になりましたね。
「また同じような二文字のタイトルなんですけど、浮かんだものを覆すのは厳しいので。「華麗」と書いて「加齢」と読むみたいな気分がありますが、デザイン的には「華麗」がいいなと」

――今回の中で、早めにできた曲というのはどれになりますか?
「「どうでもいいよ」「不良先生」「Summertime 411」「ふぁーすとくらす」「クラブ国際」「太陽の街」「Deep Blue Night」。新しいのは、「Hi」が最後から二番目で、一番新しいのが「LOVE」。だから、1曲目と2曲目ができたてほやほや」

――それは、全体を通して、もっとこういう曲がほしいからということで作ったんですか?
「おっしゃる通りです。この2曲がない状態で、違うタイプの曲が2曲、候補としてあったんですけど、そちらを落としてこちらに差し替えました。バーッと聴いて、何か足りない、こういうスパイスがあれば完全なアルバムになるのになと思ったんですけど。何が足りないんだろうと思った時に、ファンクなノリのブラスロックが欲しくて、それで「Hi」を作ったんです。でも、やってるうちにエッジの強いハードなロックになり過ぎちゃった。そこをいろいろ見直し、ブラッシュアップし完成に至りました。「LOVE」は、「Hi」ができたからもういいだろうと思ったんですけど、まだ足りない、もっとスピード感が欲しいと。スピード感はあるけれどきれいなコード、サウダージなコードとメロディが欲しい。そうやってできました」

横山剣

――「ふぁーすとくらす」はどうやってできたんですか?
「コードもリズムもメリディーも頭の中で鳴っていたので、鍵盤弾いて歌やコーラス入れて簡単に出てきた曲です。リズムはロドニー・ジャーキンスばりにレイドバックした拍ズラしビートを敢えて生演奏でやって、それをまたコンピュータに取り込んでよりヒップな感じにエディットするという、一筋縄ではいかない手法で仕上げました」

――収録曲の合間に入る「eye catch」も今回は秒数が入っていますね?
「そうですね、これは「LOVE」を編集して作っています。「LOVE」のイントロをちょん切って「eye catch-華麗なる11秒‐」ができて。「eye catch -華麗なるゲンタ-」は「LOVE」のビートですけど、これは編集じゃなくてゲンタ君に叩いてもらったんです、「LOVE」に準拠しつつ。そこに「どうでもいいよ」のエンディングのフルートを張り付けました。「eye catch -華麗なる21秒-」はイントロをまるごと入れた感じですね」

――「クラブ国際」は和風な曲ですね?
「はい、雅な世界ですね。過去のCKBにも「まっぴらロック」「京都野郎」等、和の高速ボッサがありますけど、こういう赤坂的お座敷感が好きなんです。「クラブ国際」は実際に香港のチムサーチョイに実在した怪しい店で、ネオンが気になっていてタイトルにしたいなと思っていたんですけど忘れていて。今回はボーカルチーム3人で、アイシャちゃんとデュエットして、そこにテツニが絡むというドラマ仕立てです」

――「どうでもいいよ」も演歌調というか?
「曲調が五木さんの歌唱法を呼び込むんですよ。脳内にオリエンタルなメロディとクンビアなビートと五木節が鳴ったので、それをそのまま摘出した感じです。これはハマフェスという横浜の祭りが毎年、横浜の山下公園で行われていて、僕らも毎年ゲストで出演させていただいていますけど、去年はテーマソングの「ハマのビート」を、今年は勝手に「どうでもいいよ」をテーマソングってことで一足先に披露させていただきました。守屋浩さんの「僕はないちっち」へのオマージュで、お祭りなんて嫌だっていう歌詞ですけど、嫌なわけはないんです。女性にふられて、ヤケクソになっている時にお祭りってしんどいでしょ。明るければ明るいほど。そーそーそーそー。」

――温度差がありますからね。
「ガキの頃、そういう経験あったしね(笑)。そんな心境を歌っています。千昌夫さんの「アケミという名で十八で」という歌があって、これも港を舞台とする哀歌なんですけど、それと五木ひろしさんの「よこはまたそがれ」の歌い方と、守屋浩さんの「僕はないちっち」の歌詞が混濁してる。混ぜるな危険、ですけど・・・。混ぜました(汗)」

――それが自然に出てくるのがすごいです。
「そうですね、何が好きなのか自分でもわからないですけど、グッとくるものであればジャンルなんて関係ないの。僕らが目指すのは旨い大衆食堂のようなシティ・ソウル、つまり大衆ソウル。雑食だけど他にはない、そんな心意気をアルバムにしましたね」

横山剣

――「不良先生」はセクシーなドラマが浮かびますね?
「そうですね。これ、モデルとなった先生が数名いまして。クルマ好きで女好きという。すべてのお医者さまがそうだなんて偏見はないですよ。そんなこと言ったら真面目な先生からクレーム来ちゃう。たまたま僕の周辺にプレイボーイなお医者さまが数名いるのでモデルにしました。しかも、この「不良先生」というタイトルと曲が浮かんだと同時に、今回のアルバムのヴィジュアルが浮かびまして、メンバー全員で医療従事者の恰好をしようと。昔、ケーシー高峰が着ていた半袖の外科医の服を僕とガーチャンとゲンタ君が着て、ノッサン、シンヤマン、ジャッカル、ヨン様、わかばさん、澤野くん、アイシャが長めの白衣を着ている。テツニだけがカーネルサンダースおじさんみたいな、それを理事長ということにして(笑)。『白い巨塔』ですね、山崎豊子さんの。『華麗なる一族』という作品もありますし、それもあって『華麗』です。実はコロナ禍にたまたま肺炎になりまして。入院したんですが、その時にお世話になった感謝の気持ちも込めています。今度、生まれ変わったら不良先生になりたいですね」

――「太陽の街」というのは本牧のことですか?
「そうです。高層住宅が町の条例かなんかで禁止されてるみたいでね。特に米軍基地があった頃は3階建てもなくて、太陽がいっぱいだったんです。そういうイメージから「太陽の街」と。僕らはこの街で結成して、スターティング・メンバーに廣石恵一がいたんですが、彼は体調を壊して3年前に脱退、今年亡くなってしまった。そういう感謝とか思い出を滲ませた曲なんですが、何も説明してないのに、2代目ドラマーのゲンタ君が感じてくれて、頭のフィルは2007年の「生きる。」という曲のフィルをそのままやってくれたんです。廣石さんが生前、叩いていたフレーズです」

――そういう指示をしたんですか?
「何も言ってないです、ゲンタくんの意志で。お葬式の時も、生前、一回も会ったことないけどご挨拶がしたいって。初対面がお別れの日なんですが…。でも、そこでけじめをつけたいという気持ちがあった。ドラマーとしても、人としても晴らしく、リスペクトできる。危機的状況にあったCKBを救ってくれたことにも深く感謝しています。廣石さんも喜んでいると思います」

――スローな楽曲の「時差」に関しては?
「2~3年前にサウンド・プロデュースのパーク君が置き薬のように置いていったトラックの中の一つで、昨年のアルバム、一昨年のアルバムではミドルとかスローの中間ぐらいの曲はいっぱいなので、入れる余地がなかったんです。なので、今回のアルバムには絶対入れようって決めてました。で、このオケに押し出されてメロディと歌詞ができたんですけど、最初にジェットという言葉が出てきたので、そこから時差とか日付変更線とか浮かんで。海外との時差を恋人との心の距離に置き換えて描いてみました。今回の裏テーマである時間というものに重なりますね」

――「Deep Blue Night」はどのように?
「86年にダックテイルズというバンドがありまして。このバンドの事務所を解雇になった時に、その空虚な心を埋めるために、たまたま渋谷東映で韓国映画『Deep Blue Night』を見たんです。でも、字幕もなくて英語と韓国語だけ(笑)。どう理解しろっていうんだ。だけど、僕が大好きなアン・ソンギっていう役者さんだけ見ればいいやって。英語の部分もあったので、何となく雰囲気で最後まで見たんですけど、空虚な心で見る映画が切なくて。終わって外に出たらまだ明るいんですね。ユーミンの「悲しいほどお天気」じゃないけど、よけいに空っぽの心に気づいて涙が出てきて。いつかこのタイトルで曲を作ろうと思っていたので、39年前に見て寝かせていたタイトルということになります。「Deep Blue Night」っていうフレーズの部分はだいぶ前から頭の中に鳴っていて、ムードコーラスとかソウルっぽい感じで作っていたんですけど、ここはソウルっぽい方面のものを完成させました。この曲がヴィンテージな感じがするのはコンセプトが古いからなんです」

――でもアレンジが緻密ですね?
「ホーンセクション、コーラスもだいぶ凝って、アレンジは楽しかったですね」

――「くらげ」はタイトルのまま浮遊感のある感じで。
「くらげは浮かんでいるだけの、平和な生き物。でも、時々、人を刺すでしょ。刺された恨みはあれど、クラゲの酢のものは大好きだし。くらげって題材はいいね。最初は横浜の港湾で働いていた頃の思い出を詞にしてたんですが、その頃の心境で漠然と「くらげっていいな」って思ってたの。テロとか戦争とか勃発した時代だったから。で、メロディーはそのままに歌詞を差し替えてたみた。半透明というのもいいし、戦わないし沈むこともない。でも刺す時は射すから、言葉の暴力には気をつけてねっていうことですね。そーそーそーそー」

――ここで本来、終わりそうな感じですけど、最後にサイケな曲調の「とまれみよ」で締めくくられますね?
「クラゲの出る季節で、ひとまず夏の終わりなんですけど、最後に小野瀬雅生の「とまれみよ」を入れました。彼は食に関するフィールドワークとして、全国いろんな場所に身軽に一人で行くんですけど、その旅の中で警報機のない踏切に出会って、そこに「とまれみよ」ってひらがなで書いてあって、それがヒントになって押し出された曲だと言ってました。僕の印象としては、踏切が結界になっていて、この世とあの世を分けているような感じもしました。本人にそう感想を伝えたら、ありがとうございますと。彼の歌詞にはいつもSFチックな感じがあるので、魅力的な作品ですね。トリを飾るにふさわしい、映画で言えばエンドロールに当たるような曲です」

――今回のアルバムが仕上がってみての手ごたえはいかがですか?
「僕にとってアルバム制作というのは、自分が聴きたい音楽、車の中で聴きたい音楽を出したい、というのが前提にありますから、今回もテスト盤をカーステレオでヘビーローテーション中です。まったく飛ばす曲はなくて、「とまれみよ」を聴き終わったらまた最初から聴く。曲は多岐に渡るんですけど、DJミックスが如く、曲順がグラデーション状に変化していけば、あまりとっ散らかった感じにはならないと思って、そういうシミュレーションを重ねてこの形になりました」

横山剣

――どれも個性的で突き抜けている楽曲ばかりなので、ツアーが楽しみです。
「いつもは2~3曲は落とすんですけど、練習でうまくいけば全曲やると思います。毎年、曲が増える一方で選曲は大変ですけど、”華麗なるツアー”は新譜を中心とするツアーなので、新曲を演奏するのが楽しみですね。ただ、CKBの「タイガー&ドラゴン」しか知らない方、どんな感じなんだろうって来られた方、そういう方たちを置いてけぼりにしないよう、昭和歌謡コーナーがあったりしますから。前回は「みずいろの雨」「傷だらけのローラ」「メリー・ジェーン」という3曲を取り上げました。今年も何かやりたいですね」

――アルバムの楽曲がさらにライブで輝きそうですね?
「生演奏のライブスペシャルというか、アレンジも工夫して生でダイナミズムが増してくると思いますので、そこも楽しみにしていただければ。このアルバムを聴いて予習して来ていただくと、なおさら楽しいと思います」

(インタビュー:岡本明 / 写真:谷田歩夢)

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